とある魔法学園の一日 13
13
「そもそも始めに魔法の概念は無く、多少の才さえあれば誰もが願いをそのまま魔導として行使できた時代があった。
魔導とはマナから望みの効果を生み出すもの、つまり感情が魔導に直結するという極めて危険な状態だった。
事実争いは絶えず、地は裂け、海は干上がり、挙句には星さえ降り注ぐような混迷の時期だったらしい」
「よく生命が絶えなかったな」
問題児にしては的を射た感想だな。
自分も実践型の魔法使いだから何か感じる所があったのかもしれないな。
「その惨状を憂いた、中でも特に強大な力を持つ魔導師達が集まって創ったのが大魔法協会だ。
彼らは混沌の時代を終わらせ、代わりに誰もが簡単で安全に扱えるような魔法を生み出した。
その裏で、利己的な魔導師の暴走の抑止も成し遂げた」
「は……反発は無かったんでしょうか?」
普通の子は恐る恐る質問してきたが、当然の疑問だな。
「もちろん反発はあった。
彼らにしてみれば自由を奪われるということに等しかった。
しかしこの創設者達の中でも、特に幾人かの大魔導達は格が違い過ぎた。
全ての魔導師を一瞬にして集め、その格の違いで不満を押さえ込んだ。
表面的に従う者もいたが、創設者達が上辺の言葉や態度でごまかせるはずも無く、結局不穏分子たちは魔導を封じられていった」
「それだけ聞くと新たな火種にしかなりそうにありませんね……」
編入生がここで反応した。
その後を心配する辺りは流石だな。
「力で抑え込むだけではそうだったろうね。
しかし今世に伝えられている魔法の原理を造る栄誉があるとすれば話は別だ。
火系の得意な魔導師達は火に関する魔法の制定に、水の魔導師達は水の魔法……といった具合に新しい取り決めを作ることに参加したんだ。
今までは好き勝手作ってきた魔導だが、誰もが簡単かつ平等に扱える魔法を制定するとなると、これは大仕事であると同時に偉業でもあった。
魔法制定は競争のようになっていった。
誰がその栄誉を手にするか、とね」
「研究成果がもれちまったらどーすんのよ?」
「何ヶ月かに一度会合を開き、研究結果を発表しあっていたそうだよ。
だからそれぞれの研究結果を元に更なる安定化を図っていったんだ」
「じ、自分だけこっそり研究を進めていたり……とかは?」
「創設者達にそんなごまかしは利かなかったろうし、それぞれの研究の進捗状況から貢献度が定められていた。
別のアイデアが新しいアイデアを生むことはよくある話だからね。
こっそり研究をしていても処罰されなかっただろうけど、一人が研究できることと万人が知恵を出し合う環境とどちらが上だろう?
中には本当に万どころか億の人々を飛び越していくような傑物は居たかも知れないが、それでも最後は後者が有利だろうね」
「では貢献度がそのまま地位のような物になったんですか?」
「そう、基本的な魔法の制定に最も貢献のあった者達が、時代の大魔法協会の委員、10人委員会のメンバーとなれたんだ。
大魔法協会が制定された後、創設者達はその座を魔法制定に貢献した者達に譲り、各々の道を歩んだそうだ。
更にその大きな改革から十数年程を経て、マナの濃さは今の状態にまで落ちたといわれている。
結果的にこの時代に消費の少ない魔法が生まれていたのは幸いだったといえる。
さて、これが大魔法協会設立の歴史だが、今とは真逆なことに気付いたかね?
昔は魔導師が魔法協会に加入した。
今は魔導師となり、魔法協会を巣立っていく。
魔法協会は魔法とそれを基準とした魔術までしか提供してくれないからね。
それ以上になれば、むしろ自分だけで研究しなければならない」
始まりの歴史はここまで。
次は禁忌について。
禁忌とは→23